Dailyscape Fragments

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「宝石商リチャード氏の謎鑑定」に最初がっかりしたけど思わぬことになった話(1)

「宝石商リチャード氏の謎鑑定」の第2部完結編である、第10巻「久遠の琥珀」が発売になりました。ひと区切りということで、この作品について書いておきたい。
 
読んだことがない人、あるいは最初の方で読むのをやめた人を読み手として想定してるので、ネタバレにはそれなりに気を配りつつ、でも触れないと紹介できない部分については触れていきます。また、作品に対してネガティブな感想も含まれます。以降、読み進めるかは各自の判断で。
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私はもともとミステリ、それも謎解きメインの本格ミステリが好きだ。

なので「ジュエル・ミステリー」「宝石商の店で働くアルバイトが語り手」と言われれば、そりゃあ、がっつり推理が展開されるような作品を期待してしまう。
そもそも宝石自体、ミステリにはよく登場するし、その蘊蓄が物語と絡むこともよくある。相性がいいことは間違いない。
第1巻は、各話読み切りの短編。宝石が含まれた各話のタイトルが並んでいるだけで、なんとなくわくわくする。
 
第1話「ピンク・サファイアの正義」は、宝石商リチャードと、大学生中田正義(なかたせいぎ。以下「正義」がほぼ固有名詞で出てくるので注意)の出会いに始まる。
ライトノベル的な親しみやすい文章。正義の明るいキャラクターもあって軽快な筆致。
この話では、宝石の鑑定を依頼するのは正義自身であり、リチャードが「鑑定」する「謎」も彼自身の物語だった。
とりあえず面食らったのが、なかなかに暗く重い正義のルーツ!
筆致の軽さとのバランスよ!あるいは意図的なのか。
正義のバックグラウンドが垣間見れたことで奥深さは増す。
 
物語は宝石の鑑別(ダイヤ以外は「鑑別」になるらしい)から、関係者との対面へと展開し、一定の解決を迎える。
けど、うーん、過程があまりに偶然に頼りすぎで…
正直なところ、がっかりしたのでした。
 
2話目からは、リチャードの店「エトランジェ」を訪れる顧客たちが持つ問題に、宝石の鑑別・鑑定を通じて、正義(アルバイトをしている)とリチャードが関わり、解決へと導いていく。
宝石にまつわる興味深い話、というのはたくさんあるのだろうけど、真っ当な宝石商なら、個人の立ち入ったことに踏み込んだりは普通しない。ので、そこに踏み込んじゃって波乱を起こすのが正義の役回り。しかしある程度現実に則った世界観なので、彼が「かなり迂闊で未熟」という設定になっている。
この部分、特にアニメ化にあたって一層強調された感があるんだけど、結構、イライラする!(笑)
ただ、ミステリだとそれなりに見かける事象かもしれない。
 
で、博識な宝石商リチャード氏ですが、宝石の知識はもちろんふんだんに持っているし、それが真相に辿り着く要素にもなってはいる。そんなに宝石の役割が重くない回もあり、そこは全然構わないのだけど、どうしても「偶然」が多すぎるんだよね…
 
もちろん世の中的には、こういう作品を「ミステリー」という括りに入れるのは全然アリなのはわかっている。つまりは、設定や事前情報から「本格的な謎解き」なのではないかと、期待のハードルを自分で勝手に上げて、それでがっかりしたということ。
 
一方、正義とリチャードについて各回で知るうちに興味は湧いてくる。キャラクター人気が凄いことにも納得。
二次創作を手掛ける層に人気があるけど、彼らは特に付き合っているとかそういう関係ではなく、正義はなんなら可愛い女の子に恋している。けど、「そりゃあ二次創作がバンバン書かれる」要素は確かにある。
 
ここに「信用ならない語り手」手法が用いられているんだけど、第1巻を読んだ時の印象としては「なるほど、正義が認識していないところにも世界があると提示して、二次創作を大きく肯定しようとしてる、のかな?」と言ったところ。
(第二部終了まで読んだ今思うに、全然コレダケジャナカッタ。という話しはまた後で)
 
それぞれの作品はとても丁寧に、ステレオタイプじゃない多様な価値観の人たちの物語が紡がれる。特に、芯の通った女性たちが魅力的。
ミステリファン的には、死んだバレリーナの呪いがかかったエメラルドの謎に挑む「エメラルドは踊る」は読み応えがあった。
また「トルコ石は踊る」はアクティブというかアグレッシブな展開で、リチャードの振り幅⁉という意外性で面白かった。
ただ、多くは佳作だけどこじんまりしてるという印象。もちろんそこがいいという読者もたくさんいるのだろう。
 
さて、続き読むのどうしようかな…と思ってるうちに3巻まで読み終わり、4巻は読まなくてはならなくなり(なんでかは読めばわかります)舞台は海外に。
正義はリチャードを追いかけて、イギリスに行くのですが、この4巻で大分様相が変わり、めっちゃ面白かったのです。
続く。