Dailyscape Fragments

フィギュアスケート/ユーリ!!! on ice/お笑い/ミステリの話など。ちらかっててごめん。

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「宝石商リチャード氏の謎鑑定」に最初がっかりしたけど思わぬことになった話(2)

前回の続きです。

主に第4巻「導きのラピスラズリ」の話。内容に触れますのでご注意を。

 

 

この巻、一見ここまでのオムニバス形式に見えるし、各話区切りはついているけれど、正義がリチャードを追いかける長編冒険譚になっている。
全編通して面白かった。

冒頭の章、リチャードがいなくなった銀座の宝石店「エトランジェ」にいたのはリチャードの師匠シャウル氏。アクの強い、不敵なキャラクター。正義を最初はていよくあしらおうとしていたシャウルに食い下がる正義。
ここで、ある指輪についての謎が提示される。これがまず、面白かった。
こういうものがある、ということ自体も興味深いし、絶妙な難易度、かつドラマチック。
ここに、鉱物に詳しい谷本さん(めっちゃ素敵なキャラですが、諸事情により多くは説明しないでおきます)が正義をフォローしつつ、そして正義と谷本さんの揺らぐ関係にも一定の区切りがつく。宝石の謎への興味も、キャラクターへの関心も同時に満たされる贅沢な展開。

前から思っていたんだけど、この作品、正義のモノローグや登場人物たちの会話の文章ボリュームが多いんだよね。3巻までは短編なので、そこがちょっとアンバランスに感じていたと気づく。やりとりしている会話は面白いんだけど、起こったことを振り返るとあっさりしていて物足りないというか。
その特徴が、長編になったことでうまくハマっているように思う。

背中を押してもらった正義は、ロンドンへ旅立つ。不安な一人旅…のはずが、気づけばリチャードの従兄であるジェフリーが隣に。機内で、リチャードの背負う数奇な相続問題について聞かされることになる。
イギリスの貴族の相続問題!クラシックな海外ミステリみたい!
…と思っていると、ものすごい差別意識満載の先祖の、呪いみたいな遺言の話に。

「エトランジェ」に「人種、宗教、性的嗜好、国籍、その他あらゆるものに基づく偏見を持たず、差別的発言をしない」というルールがあるほど、ここまでの作品の中でも偏見や差別の問題はたびたび出ていて、作者が拘りをもっているテーマなんだなということは垣間見えていた。しかし相続問題にまで絡むとは。

ロンドンの名所を巡り、物語のキーとなるのが大英博物館。そして舞台は「歴史的建造物」であるリチャードの実家へ。
個人的にヨーロッパは好きで、美術館博物館、そして西洋建築が大好きなので、ひいき目かもしれないけれど、絶世の美しさを誇るリチャードの背景として、これらの壮麗で華やかなロケーションはとてもしっくりくる。二人の再会は忘れられないシーン。いつか聖地巡礼に行きたいな!
ちなみに、特にヨーロッパに詳しくない大学生の正義の視点で描かれているので、小難しい描写はあまり出てこない。特別詳しくない人でも大丈夫。

相続問題は、正義の衝撃的な作戦により打開を迎える。この大胆な展開も、長編ならでは。内容、特に相続問題の経緯はここだけで長いシリーズを読んでいたかのような濃厚さ。

更に、真相まで知ると裏返る事象。全く違う物語が見えてくる。
このシリーズに、ミステリ的謎解きはもう求めていなかったけど、ミステリを読んだような爽快感があった。

かつ。これまでの3巻で描かれてきた、正義のちょっとイライラしてしまうぐらいの「正義の味方」的振る舞いについて、リチャードが明晰な指摘と意思表示をする(って言い方が雑だけどあまり内容に触れられないのでご了承を…)。こんな風に理解してくれる人がそばにいるって、とても幸せなことだな…と思う一方、リチャードも正義から多くを受け取ったことがわかる。
ただそのことを正義は全然自覚できていないという(これはシリーズ全編でわりと続きます。お楽しみに!)

10巻まで読んだ今振り返ると、正義とリチャードの関係はまだまだ浅く、そして正義はポテンシャルは感じるけど普通の大学生だったんだなって思う。

ということでまだ4巻なわけですが、書き出すとやっぱり長くなるな…
ちょっとしばらくしたらまた続きを書こうと思うのですが、今書いておきたいことをまとめると。

・そんなわけで1~3巻が合わなかった人も4巻は読んでみてほしい
・4巻が好きなら、7巻以降の第2部は気に入るんじゃないかと思う。海外が舞台の長編。というか、7~10巻は大きな一つの物語。
・5巻、6巻はオムニバスに戻るけど、前半よりバラエティに富み、面白い話が多い
・というか第2部を読むなら、5巻も6巻も飛ばすわけにはいかなくなる
・ちなみにアニメで物足りなかった人も、是非お読みいただきたい。というかアニメで初めて見て感想した人すごいと思う。4巻あたりは、大筋はアニメも大分頑張ったけど、全然印象が違うんじゃないかな。

では、続きはまたそのうち。